★★★★☆
太平洋戦争前と後のイギリスが、日本の情報をどのように収集・判断していたか、をレポートした本である。
著者は元ロイターの記者。文章は平易で読みやすい。
ただ、白州次郎、吉田茂、昭和天皇、広田弘毅、チャーチルなどの一般的な知識があった方が、良い。
昭和天皇がイギリスに親近感を持ち、対英米戦争である太平洋戦争の開戦に反対していたのは、割と知られた事実だ。著者は駐英大使吉田茂の背景には、その昭和天皇の意が働いていたとして、評価の低い戦前の吉田の対英交渉に新たな視点を設定している。
戦前の対英交渉や、ローマ法王に近付いた戦後の昭和天皇の動きも面白いが、やはり、注目すべきは、イギリスの諜報活動であろう。007を生み出した国のスパイ振りは、伊達ではない。
この情報をどう活用すれば、『自国の利益』につながるか。
イギリスは、そのただ1つの基準に照らし、集めた情報を峻別する。
戦前、彼らは、自国の利益に繋げるために、働きかけを行って、秩父宮を留学生として受け入れ、戦後は、イギリス人を皇太子の家庭教師として送り出した。
現在でも、イギリスは(それなりに影響力のある)亡命者や政治的敗北者などを積極的に受け入れている。
あれは勿論、『自国の利益』になりそうだ、という計算に従っているだけだ。
個人の間に国を超えた友情は成立するが、国同士の間で、友情が成り立つことは、有り得ない。
太平洋戦争の開戦に欣喜雀躍(=大喜び)した英国首相チャーチルは、日本とアメリカの和平を主張した駐日英国大使のクレーギーを、生涯にわたり、出世も退職もできない地位に追いやった。それでいながら、訪英した吉田茂には、しごく友好的な態度を取り、相手に好印象を与えるのに成功している。
このチャーチルこそ、イギリスを代表し、象徴する人物だ。
狡猾で、腹黒くありながら、ユーモアがある。
ただ、一方で、クレーギーのように、自国の利益よりも己の信念に従うのもイギリス人らしいのかもしれない。白州次郎は、恐らく、こちらに近い。
ただ、この、ひたすらに『自国の利益』のみに邁進し、他国の悲劇をも利用する「国」は、果たしてどこに行き着くのだろう。そろそろ終わる冬季オリンピックを見てても思うのだが、「個(国)」と「全(世界)」のいいバランス関係というのは、難しいことなんだなあ。
2010年02月28日
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